「お父さんの片思い」

我が家には43歳の主人と小学校へ通う3人の娘がいます。

ある晩のこと、いつものようにトランプ遊びをたっぷりやってから、日ごろ自分の服装などあまり気にかけない主人が
「お父さんのシャツの襟がピーンとなるようにアイロンをかけてくれ」
と5年生の長女に注文しています。

私は夕食の片づけをしながら、そういえば最近、肩の線がどうの、ズボンの折り目がゆるいだの、靴を磨けだのとやかましい。さては…と耳をそばだてますと。

「お父さんなぁ、電車の中で可愛い娘を見つけてあるんや。会社の友達と新聞を両手一杯に広げて、途中から乗ってくるその娘の席を取っておくと、そっとその娘が座るねん。お父さんは胸がドキドキするわ。ところが、このごろその席に60歳くらいのオッサンが座るときがあって、もうガックリや…」
娘達3人は主人の顔を見上げて笑いながら聞いています。

そして打ち明け話が終わるや否や、3年生の次女が
「お父さん!そやけどそんな気持ちはあんまり強うなったらアカンで‼」
と言ったのです。
主人と私は思わず床をたたいて笑ってしまいました。

※1980年9月 サンケイ新聞掲載(私37歳の時)

この記事を書いたのは…
  • 名前:甲斐繁子(かいしげこ)
  • 教会:百萬分教会(宮﨑部属)
  • 立場:教人
  • 所在:大阪市東住吉区
  • 猛暑とコロナに閉じ込められ自由を失った老人の日課は、ごみや吸い殻、缶拾いと草むしり。認知症の予防にもなると大教会からのオファーに応え、これまでの日々のあれこれを振り返ってみることにしました。
  • 文章に添えられたイラストも甲斐さんの手によるもの
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