200メートル

マイケル・ジョンソンという元陸上選手をご存じでしょうか。90年代、向こう100年は破られないと言われた200メートル走世界記録を打ち立てた陸上界の伝説的存在です。

2018年の夏、当時51歳だったジョンソン氏はトレーニング中に脳梗塞で倒れ、一時身体の自由を奪われました。その後、初めてリハビリに臨んだとき、歩かされた距離は奇しくも約200メートルでした。

全盛期には19秒台で走り切っていたその距離に要した時間は15分。かつての身体能力とのあまりの落差に愕然としてもおかしくない状況。しかし、彼は落胆しなかったと言います。

現役時代に自己の記録を100分の1秒、1000分の1秒と削っていく世界で戦ってきた彼は、常人では認識すらできないほど僅かな進歩を、その身で実感することができたのです。彼いわく、一歩進むごとに体が回復していくのがわかったそうです。リハビリは長い時間をかけて少しずつ成果が表れてくるものです。思うように効果がでないと、心が折れてしまうこともあるでしょう。一方、ジョンソン氏は着実な進歩を肌で感じることができたおかげで心を倒すことなく異例の速度で回復を果たしました。
物事がなかなか好転しないとき、その僅かな進歩が手応えとして感じられる人もいれば全く感じられない人もいます。感覚の違いは心理状態に大きく影響し、ひいてはその者の結果をも左右します。
人生は山あり谷ありと言いますが、実際は平坦な道を進んでいる時間の方が圧倒的に長いと思います。それどころか、前進していることすら実感できない日々の連続であると言えるかもしれません。そんな状況下でも、感度の違いによって見える世界、現れてくる世界が変わるとしたらどうでしょうか。更に、そうした感覚が鍛えられるとしたら。
小さな成功体験の積み重ねや、日々の記録。ただ漫然と生きる中では見落としがちな進歩を逃さない目を養い、感度を磨いていきたいものです。

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